T V ド ラ マ の 舞 台 裏

TVドラマの舞台裏と題した講演会に参加してきました。フジテレビを中心に番組制作(主に演出)に携わっている星田良子さんという方をお招きして、標題の通り、テレビ番組制作の舞台裏をお話しいただきました。


講義と重なったため、最初の15分をお聞きすることができなかったのが残念でした。残り45分の内容としては、商業主義とモノ創り魂の平衡という点、そしてモノ創り魂の基礎となる要素についてでした。

商業主義は、スポンサーを抱えている以上、いい意味でも悪い意味でも、民放テレビ番組がスポンサーの意向に沿ったものとなる宿命を意味します。自動車会社がスポンサーとなったドラマには、自動車事故のシーンはご法度、清涼飲料水のメーカーがスポンサーなら、対立するメーカーのロゴが映っていたら必死になって消去などはその一つの局面です。さらに、映画の封切り前に、その評判を高めるために、テレビで特集番組を流し、封切り後には関連グッズのサポートをするという面には、まさに民衆の世論形成が商業主義に沿ったものだという印象を受けました。氏が、このような番組のことを「煽る」という言葉を使ってらっしゃったのが印象的でした。プロとして商業主義を受け入れる反面、番組制作者のプライドとして、純粋な商業主義と対立していることを言わんとしていたのでしょうか。

一方、話題が「モノ創り魂」に移ると、話に一段と熱が加わってきました。現場での話になるので、俳優、監督、エキストラを混じえた裏話を聞かせていただいたのですが、ここに書くのはまずいのでやめておきます。モノ創り魂においてはしばしば「アナログ的な思考 vs デジタル的な思考」という切り口をなさっていました。計算機科学を専門とする立場からは、モノの量を量子化して表す(デジタル)か、量に比例する尺度で表す(アナログ)かの違いですので、思考の違いにデジ・アナを持ち込まれると困ってしまうのですが、あとで質問して、だいたい次のように理解しました。デジタルとは原因と結果を短絡的に結びつけるような思考方法で、特に結果を重視するやりかたで、アナログとは結果に至るまでの「プロセス」を重視する仕事の進め方だそうです。例として挙げられたのが、俳優にとって肉体的にきついシーンにおける周囲の持つべき態度でした。俳優には仕事の対価として、十分なギャラが与えられるので、与えられた仕事をこなすのは俳優にとってはプロとして当然のことです。しかし、俳優も人間ですから、つらい仕事をすれば、愚痴も出ますし、機嫌が悪くなります。一方、スタッフらは俳優が大変な環境で演技をしている間、スクリーンを眺め、よいカットが得られたかに注目しているわけです。よいカットが得られれば(よい結果が得られたら)、そこで仕事は終り。理屈ではそうなります。でも、これがデジタルな思考。実際の現場では、番組制作に携わるさまざまな個性の感情がからんでくるために、こういうドライなやりかたではうまく動かないのだそうです。なんとなく分ります。仕事が終ったあとで、「***さん、オッケーです!最高の演技でしたよ!」という一言で、役者の表情がまるで変わるということでした。こういった一言が現場の空気を作るんでしょうね。

デジタルな思考については、いろいろな例を挙げて批判されていました。計算機科学を専門にしている身としては、肩身が狭かったです。例えば「リセット」。最近は、いじめられた小学生が自殺に追い込まれてしまうのですが、それもある意味でリセットということでした。テレビ局に配属された若い人々もリセットする傾向があって、氏の考えではテレビゲームの悪影響ではないかということでした。ところが番組制作の現場では、リセットはききません。生放送で電波に乗ってしまった発言をあとで撤回できませんからね。また、現場で人を傷つけてしまうと、現場の雰囲気が破壊され、制作が進まなくなるそうです。面白いのは、たとえ、その発言が正論であっても、現場の空気を読んで発言の機会を探ることが重要だという点です。大勢の人々が協力して作業をしているのですからドタンバで正論を通されても困るんですね。

ここにはあまり書きませんでしたが、業界の裏話が聞けたり、僕自身はあまり民放を見ないので、よく知らないことを教えていただき、大変、面白かったです。そうそう、もうじき星田さんが担当なさった瀬戸内寂聴さんの人生を素材にしたドラマが放送されるそうです。なんでも、男を渡り歩いた過去を、下品にならないように、でも、その壮絶な生き様を表現なさったそうです。

昨年、11月に放映された瀬戸内寂聴 出家とは生きながら死ぬことの再放送かな?もうじき放映ということでしたけれども、ご存知の方いらしたら、教えて下さい。

その後、星田さんご本人よりコメントをいただきました。再放送の予定は、コメントにございますように 2007.1.6 の15:30- だそうです。本放送から察するに2時間番組でしょうか。フジテレビのモノ創り魂が込めれられているそうです。期待しましょう。