T. O'Reillyの見る Web 2.0 (その1)
2006年11月に開催された情報処理学会のチュートリアルWeb 2.0の現在と展望に刺激されて、Web 2.0の提唱者の解説を読んで見ました。
Web 2.0についてよく耳にするようになってから半年がたったものの、あまり理解していません。そこで、先月、開催された情報処理学会のチュートリアルWeb 2.0の現在と展望で大枠を教えていただきました。これは、同学会の学会誌での同名の特集記事の発表と併せた企画だったのでしょう。チュートリアルに参加なさらなかった方は特集記事をご覧になるといいでしょう。
チュートリアルを終えて、O'Reillyの記事から読み始めました。
この記事、2001年にITバブルがはじけたところから始まっているのが面白かったです。個人的に面白かったのが、ITバブルと前後して、Web 1.0からWeb 2.0へと世の中が変ったこと、そして、むしろWeb 2.0への移行とともに、その波に乗れなかった企業が滅びたことが世間にはITバブルのはじけに映ったと示唆しているように読める点です。そうか、Web 2.0への移行は、彗星との衝突で絶滅した恐竜(Web 1.0企業)とその後の哺乳類(Web 2.0企業)の隆盛になぞらえることができるのでしょうか。
ひとまず、第1ウェブ紀(1989年〜2000年春)から、2000年春から徐々にはじけたITバブルによる大量絶滅を経て、第2ウェブ紀(2001年秋〜)に至る期間の生物相の変遷を見てみましょう。
Web 1.0 | Web 2.0 |
---|---|
DoubleClick | Google AdSense |
Ofoto | Flickr |
Akamai | BitTorrent |
mp3.com | Napster |
Britannica Online | Wikipeida |
Personal websites | Blogging |
evite | upcoming.org and EVDB |
Domain name speculation | Search engine optimization |
Page views | Cost per click |
Screen scraping | Web services |
Publishing | Participation |
Content management systems | Wikis |
Directories (taxonomy) | Tagging ("folksonomy") |
Stickiness | Syndication |
プラットフォームとしてのウェブ
NetscapeとGoogleの比較
ウェブ時代の初期を風靡したウェブブラウザがNetscapeで、今をときめくサーチエンジンがGoogleです。いずれもソフトウェア企業でありながら、どうしてNetscapeがWeb 1.0企業でGoogleがWeb 2.0企業なのでしょうか。
Netscapeは「ウェブこそ基盤」をWeb 1.0の枠組みで体現した企業でした。Netscapeのビジネスモデルでは、ウェブを見るために必須なウェブブラウザというソフトウェアを世界中のパソコンにインストールしてもらうことで、当時、重要性が急速に高まると予想された人々のウェブ体験を出口でがっちりと抑えることができたはずでした。
一方、Googleもソフトウェア企業なのですが、Googleが提供するのはソフトウェアではなく、ソフトウェアサービスです。Googleの強みは、大量に収集したウェブデータとそれを処理する能力にあります。この点、先週、京都で聞いたMicrosoft AsiaのWei-Ying Ma博士の"Data is king"とよく符合します。
Netscapeはブラウザが一般化するにつれ、その優位性を失ってしまいました。世界中の知を再構成することを目的に、日夜、膨大なデータを収集するGoogleの未来は磐石なのでしょうか?また、Netscapeの同類としてオフィス向けパッケージソフトを提供するLotusとMicrosoft、データベース基盤ソフトを提供するOracleが挙げられています。これらの企業はWeb 1.0を脱却する可能性があるのでしょうか?
DoubleClickとOverture (Yahoo! Search Marketing)やGoogle AdSenseの比較
DoubleClickはウェブ広告をウェブサービスとして提供した最初の企業で、広告主とメディアの間を仲立ちします。DoubleClickのビジネスはインターネット以前の広告代理店をネット上に実装した形になっており、広告主はDoubleClickに広告を提供し、その情報を広告収入を求めるメディアに提示することで手数料収入を得ます。
DoubleClickがわずか1,500企業との契約しか得られない一方で、ウェブにはOvertureとGoogle AdSenseを通して貼られた広告に満ち溢れています。この理由をO'ReillyはDoubleClickが広告媒体として従来の出版社のみを想定していたのに対して、OvertureとGoogle AdSenseがいわゆるConsumer Generated Mediaの存在に着目し、その結果、これら二企業がChris Andersonが唱える"the long tail"をうまく捉えたと指摘しています。
この部分の説明はうまいなあと思いました。とはいえ、人々が日頃、目にするウェブ広告について本当にロングテール性が成立しているのでしょうか?人々がアフィリエートリンクを貼るものは自ら購入したものでしょうから、商品の売行きについてロングテール性が成立すれば、アフィリエートについてのロングテール性が出ることでしょう。一方、大企業がDoubleClickなどを通して提供するウェブ広告は企業戦略のような恣意性が入ること、そして、マスコミを通した広告と個人メディアを通した広告が質的な大きな違い、二極性がある点で、ロングテールに現れるきれいな曲線が出るのかどうか。。。すでにマスコミはブログメディアに注目して、マスコミと個人メディアが緩やかに融合しつつあります。マスコミの変化とともにこの広告媒体の二極性が解消されれば商品の売り上げとウェブ広告は双子の曲線を描くことでしょう。
現時点でユーザが目にするウェブ広告のヘッドとテールに80:20法則は成立しているのでしょうか?掲載されているウェブサイトの数でいえば、実はテールの方がヘッドよりも多いということもあるんじゃないだろうか。広告費との関連も気になります。
AkamaiとBitTorrentの比較
どちらも大量のデータを保管し、ネットの末端にいるユーザが高速にデータをダウンロードできる仕掛けを提供しています。Akamaiが強力のサーバ群を提供しているのに対して、BitTorrentはP2Pファイル転送ネットワークを構成しています。O'Reillyによれば、Akamaiはロングテールのヘッドをターゲットとしているのに対して、BitTorrentは人気のあるコンテンツの複製を多く持つことによって、あるダウンロード回数に応じた負荷分散を行っています。ここでの比較において、O'Reilly の視点はサービスを提供するための技術に向けられているようです。
しかし、iTunes Music Store (iTMS)やECAST NETWORK、YouTubeのように多様なコンテンツを大量に配信を行っている企業は現存するのですから、この切り口には疑問が残ります。確かに、BitTorrentは末端のユーザが私有するパソコンの力を借りて性能を向上しているため、利用の増加とともに自然に性能を向上させることができます。一方、Akamaiが規模を拡大するためには中央サーバに投資せざるを得ず、そのためにはコンテンツ配信から収益を求めることが要求されます。中央サーバ方式で成功しているように見えるiTMSとECASTはコンテンツからの収益を得、YouTubeはビデオ映像を見るユーザたちにGoogleの広告を提示し、その収入を得ています。ネットワーク技術の問題というよりは、ビジネスモデルの作り方の違いのように見えます。