Creative Commons

  • 2007.02.09: のびたさんからJOCW発足時の様子について情報をいただいたので一部を修正しました。

OCWは高等教育機関で利用されている学習教材を外部に広く公開する試みです。ソフトウェアのプログラムを外部に公開する試みとしての、オープンソースというものがありますが、あれの教育版だと思っていただければよいかもしれません。*1OCWはもともとMITが2001年にアナウンスしたOpen Course Wareプロジェクトに始まります。OCWの運動はMITに始まり、現在は世界中で類似の動きが見られます。国内でも、いくつかの指導的な大学でOCWと類似の試みが始まり、2005年5月にJOCW連絡会が活動を開始し、翌年4月に日本オープンコースウェアコンソーシアム (JOCW)が発足しました。

脇田は昨年から、東工大OCWの委員に任命され、先輩の先生方に導かれながらOCWに学んでいる最中です。今日は、JOCWの幹事会がありました。幹事会に先立ってクリエイティブ・コモンズ・ジャパンの事務局と弁護士を招いた勉強会がありましたので、今日、うかがった話の概要を紹介します。

クリエイティブ・コモンズとは?

クリエイティブ・コモンズStanford大学法科大学院Lawrence Lessig教授を中心に提唱された著作権に関する新しい動きのようです。この運動の背景には、著作権を巡る権利関係が必要以上に複雑化し、本来あるべき著作物の円滑な利用を阻害しているという現実があります。著作権法の定めるところによれば、自分の作品のなかで他人の著作を利用させていただく場合には、相手に許諾を得る必要があります。その手続きのため、著作権者は自分の作品の著作権規定を定めることがあります。この記述が法律的な知識のない一般人には分りにくいです。また、利用者にとっても、利用を希望する著作物ごとに許諾されている利用の方法を検討するのははなはだ面倒です。

クリエイティブ・コモンズ(CC)では、人間(著作権者、利用者とも)にも、(著作物を管理する)計算機にとっても扱いが容易で、なおかつ、既存の著作権法の枠組みに整合的な仕組みを求める形で生まれました。

人間に優しいクリエイティブ・コモンズ

人間にとって扱いが容易なように、著作権の主立った概念を表示非営利改変禁止継承の四つに分類し、それぞれに対する許諾の意思を表すアイコンを提供しています。著作者はこれらの四つの権利について検討し、自由な利用を認める場合には、該当するアイコンを自分の著作物に貼り付けます。利用者は、これらのアイコンが貼り付けられた著作物については、そのアイコンが表す範囲内での利用が認められます。

クリエイティブ・コモンズのサイトは、アイコンタグを生成する機能を提供しています。HTMLコンテンツであれば、自分が作成したHTML文書にアイコンタグを添付することで自分の文書にアイコンを貼り付けることができるのです。たとえば、「クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利-改変禁止 2.1 日本 ライセンス」なアイコンを選択すると以下のようなアイコンが作成されます。

Creative Commons License
この作品は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。

アイコン自体は単なる記号なので、その意味は見ただけでは曖昧かもしれません。このアイコンをクリックすると、そのアイコンが表す法律的な権利を一般の人に分りやすく説明するコモンズ証が表示されます。著作物の利用者はアイコン、あるいはコモンズ証の説明から著作物について利用が許諾されている範囲を理解することができます。

著作権に関わる条文は素人には極めて難解であり、専門家の間でも議論の的となることもあります。クリエイティブ・コモンズの利点は、著作権に関する典型的な数種類のパターンを提示することで、無限にも思える法律上の解釈から一般人を開放するものといえるのでしょうか。

機械に優しいクリエイティブ・コモンズ

上で紹介したアイコンタグはメタ情報を含んでいます。つまり、コンピュータに個々の著作物の利用範囲を「理解させる」ことができるのです。すでにGoogleYahoo!クリエイティブ・コモンズのメタ情報に対応しているそうです。これはウェブ上でクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが指定されたコンテンツのみを対象とした検索が可能だということです。たとえば、Google の検索オプションの画面で利用の権利を指定することができます。


クリエイティブ・コモンズと法的な枠組み

さて、著作物を巡る権利関係が簡単なアイコンで判断でき、検索エンジンなどを用いて機械的な処理も自動的にできることになりました。でも、法的な面でアイコンに頼るのは少し心配ではないでしょうか?この疑問には、さきほど紹介した、コモンズ証の下の方の説明が答えてくれます。たとえば、上のコモンズ証には以下のような説明が書かれています。

コモンズ証は、利用許諾条項そのものではありません。利用許諾条項の重要な条件の一部を一般の方にわかりやすいように表現したものです。この「コモンズ証」それ自体に法的な意味はありませんし、その内容は実際の使用許諾条件には書いてありません。作品の実際の利用条件は、利用許諾条項によって決定されます。利用許諾条項はこちらをご覧ください。

つまり、法的に厳密な議論が必要になった場合は、このリンクを辿ればよいということになります。

コモンズ証の上の方を見るとわかるのですが、コモンズ証の内容はいくつかの主要言語に翻訳されています。同様に利用許諾条項もそれらの言語に翻訳されているそうです。この仕組みはインターネットで公開されている作品が海外で利用される場合にも一定の対応をするためのものです。

法律の条文に翻訳が関わる場合、条文の正本をどの言語による記述にするかということは問題となります。さきほどの例の場合、第8条d項にて「この利用許諾は日本語により提供される。この利用許諾の英語その他の言語への翻訳は参照のためのものに過ぎず、この利用許諾の日本語版と翻訳との間に何らかの齟齬がある場合には日本語版が優先する。」と、日本語を正本とすることが明記されています。英語版の利用許諾ではどうなっているのかと思い確認したのですが、そもそも英語版の利用許諾は存在せず、コモンズ証のみが提供されているようです。これは今後、外国語訳が提供されるということなのか、それとも未来永劫、権利者の国の版のみが提供されるということなのでしょうか。ちょっとよく分らなくなりました。

さて、利用許諾には「著作権法」という語が用いられているのですが、これはどこの国の著作権法を指すのか心配になりますね。これについても利用許諾の「第9条 準拠法」において「この利用許諾は、日本法に基づき解釈される。」ときちんと書かれています。

http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/2.1/jp/legalcode

Creative Commonsの事例

すでにCreative Commonsを導入している団体はたくさんあるようです。以下に資料に含まれた例を挙げます。

BBC Creative Archives
BBCの過去放送コンテンツをCCライセンスで公開
Nifty: NeOM:republic
映像、楽曲コンテンツの配信にクリエイティブ・コモンズを利用
Wired CD
Wired誌が企画し、メジャーアーティスト16名が参加し、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで楽曲を提供している。
CC Mixter
音楽共有&創造支援サービス*2
NTT ClipLife
クリエイティブ・コモンズ対応動画共有サイト*3
Microsoft Office
文書ファイルにクリエイティブ・コモンズ証を添付する機能を持っているそうです。*4
$100PC
100ドルPCとして知られているプロジェクトは貧しい国の子供たちの創造的な活動を促すためにクリエイティブ・コモンズの運動にも積極的だそうです。

*1:オープンソースではネット上での協調作業を通したソフトウェアの開発という面が重要ですが、OCWでのそのような動きはまだないように思います。

*2:Web 2.0チュートリアル橋本大也さんが紹介してたような気がします。

*3:ぼくが使っているfotologueという写真の投稿サイトもクリエイティブ・コモンズに対応しています

*4:Microsoft Officeに付属のArtworkなどの著作物がクリエイティブ・コモンズに対応しているという意味ではありません。